[本]

「笑芸日記 一九九六-二〇〇五」。 / 2006-08-29 (火)

 また、前の書評から2ヶ月近く経ってるわ…(苦笑)。

 というわけで、高田文夫先生の「笑芸日記 一九九六-二〇〇五」(ちくま文庫)です。これは1996年から小説現代誌上で連載されている「談笑亭日常」を、10年分まとめたものです。 2004年に白夜書房から出てるまとめ本との違いは不明…(多分、期間の問題だけだろうけど)。

 で、この文庫の基になっている連載は、高田先生の仕事内容や、見た舞台・コンサート・演芸、また芸人さんとの交流など、 先生の「演芸方面」の生活を記したもの。面白くなかったものは完全スルーとのことで、とっても楽しい演芸人生を送っているように見えるのがミソですね。 前書きに「この10倍は見ている」とあるので、実際には山ほどの駄作に遭遇されているんだとは思いますが(苦笑)。

 この本の最大のポイントとも言えるのが、当然のことながら、その時期その時期に起こった(主に演芸界の)出来事や公演などが書かれているため、 「あぁ、そういえば、そうだった」と思えるところ。特に毎月のように記載されている芸人さんの訃報が、自分の過ごしてきた時間と重なるところもあって、 妙にセンチになったりもする。内海好江師、志ん朝師、小さん師、柳昇師(究極超人あ~るで有名なあの人ですよ)…。皆、この10年間で亡くなったのですね。

 親族などであれば、定期的に法事などもやりますから、ある程度何年経ったかというのはわかるものですが、 直接縁がない芸人さんだと、非常にあいまいになってしまいますからね…。 こうして一気に読んで見て、時系列的にひとり、またひとりと亡くなっていくのが、なんとも物悲しい。 まぁ、その悲しさというのも、生前の芸が思い出せるからこそ、そう感じるわけで、また改めて先人の偉大さに嘆息するのです(大げさに言えば)。

 さて、著者の高田先生については、有名な方ですので、多分説明はいらないと思いますが、簡単にご紹介を。 元々は放送作家ですが、とにかく本人が面白いので、ニッポン放送でラジオを17年やっていたり、 落語立川流の真打であったり、大衆芸能の季刊ムックの編集長であったり、また演芸公演のプロデューサーなどもこなし、存在自体が「大衆芸能」と言える人です。

 わたしが本格的に落語会に足を運ぶようになったのは、立川志らく師匠(当時、まだ二つ目でしたが)が直接のトリガーですが、 高田文夫先生(高座名は立川藤志楼)の落語も衝撃的でしたよ…。とにかく面白くて腹を抱えて大笑いした。

 というか、高田先生は対談とか見てるだけで、とんでもなく面白くて、わたしの中では尊敬を通り越し、畏怖すら感じる存在です。 だもんで、この人だけは、必ず敬称に「先生」とつけてしまいます。

 出不精とめぐり合わせにより、未だに立川藤志楼師の生の高座を拝見したことはありませんが、 是非とも、一度ちゃんとは見てみたいなぁ…。

 ちょっと話がそれましたが、大衆芸能が好きな方であれば、色んな意味で楽しめること間違いなしですので、 是非ともお手にとっていただければと。逆に、上で名前を挙げている人が「誰?」って人には、あまり楽しめないかも知れませんね(苦笑)。

 それでも、落語家だけでなく、北野武とか、クレイジーケンバンド、氣志團などといった人の話も出てきますので、 まったくつまらないということもないと思いますが。

 さて、これを読み始めてから、非常に色んなものが見たくて仕方がない状態で、 すでに、いくつかチケットを押さえてしまいました。 しばらくの間は、あちこちの落語会や、演劇会場などで、わたしと遭遇する確率が上がっていると思います(笑)。 万が一遭遇した場合は、演芸話でもしばしお付き合いくだされ(なんか書評じゃなくなってる(笑))。

一応Amazonリンク:
『笑芸日記 一九九六-二〇〇五』(ちくま文庫)


[本]

「世界の神々がよくわかる本」。 / 2006-06-28 (水)

 書評書くのも3ヶ月近くのご無沙汰ですな。本は結構読んでるんだが…(汗)。

 今日のお題は『「世界の神々」がよくわかる本~ ゼウス・アポロンからシヴァ・ギルガメシュまで』(東ゆみこ監修、造事務所著、PHP文庫)です。 ぶっちゃけ、ここを読んでいる人にとっては「トール・ギルガメシュから、クトゥルー・アトラクナクアまで」という方が興味を惹かれるような気がしなくもないですが…。

 というわけで、書名からわかる通り、世界各地の神話に登場する神様のガイドです。 神話系統ごとに記載されていて、ギリシャ、北欧、ケルト、インド、メソポタミア、エジプト、クトゥルーの7系統ごとに、 神様が紹介されております。

 文庫ですし、これだけの広い分野を扱ってることでわかる通り、個々の記載はさほど(というかまったく)深くはないですが、 主要な神様には劇画調の挿絵がついてることで、かなり印象深い本になっています。 やっぱりねぇ、人間型の神様なんかはいいけど、異形の神様は想像しにくいからねぇ(エジプト系の神様とか)。

 というわけで、しっかりと神様を知ろうとすると、どう考えても物足りないですが、 神話世界の入口として、また、主要神の備忘録的な使い方にはいい本だと思います。 まぁ、掘り下げた内容であれば、専門書がなんぼでもありますからね。 浅く網羅した本っていうのは、結構使い勝手がいいものです。

 しかし、クトゥルー神話入れるのなら、他に入れるものがあったんじゃないかと思ってしまうのですが…。 まぁ、ゼウスやオーディンなんかと同じ扱いで、普通にクトゥルーやナイアルラトホテップが載ってるのは面白い(というか可笑しい)けど(笑)。

 あと、もう少し神話体系の大枠は、サポートした方がいいんじゃないかという印象は受けました。 血縁関係の図は結構あるんですが、神話全体を俯瞰したような図はほとんどないですから。 まぁ、個々の神様に焦点を当てた本としては正しいのかも知れませんが。

 個人的には、仏教の神様(っつーか仏様)について、同じような本が欲しいなぁ(笑)。 って、なんか良い本があったような気がしなくもないんだけど、忘却の彼方…。 マリみての乃梨子のように仏像マニアを目指さなくては(笑)。

一応Amazonリンク:
『「世界の神々」がよくわかる本 ゼウス・アポロンからシヴァ、ギルガメシュまで』(PHP文庫)


[本]

「ダヴィンチ・コード」。 / 2006-04-06 (木)

 読んだことはなくても、これを知らない人は、もうほとんどいないでしょう。 「ダヴィンチ・コード」(ダン・ブラウン、角川文庫)です。 すごく話題になった本ですが、気付いた時には完全に乗り遅れていたので放置していました(ぉ)。 しかし、この度、文庫化されたので、一気に読んでみました。

 率直な感想は、「結構面白かった」くらいでしょうか。熱狂するほどではなかったかな。

 まぁ、こう思うのはわたしが日本人で、キリスト教徒でもないというのが、大きな理由でしょうね。 これが子供の頃から、深くキリスト教に関わっている欧米人なら、まったく受け取り方は違うでしょう。

 この本は、「聖杯伝説」をテーマに置いている本です。日本人には馴染みがあまりないですが、 欧米人であれば誰もが知っている物であり、欧州史上最大の伝説とも言えるかも知れません。

 聖杯の正体や、その隠し場所など、聖杯に関する研究を行っている人間は数多く、「聖杯」は今なお多くの人を魅了しています。

 わたしも、宗教関係の書物などは、色々読んでいるので、聖杯についての知識は少なからずあるんですが、 どうも、今一熱狂できないというか、体感として盛り上がらんのですよね(苦笑)。

 日本史でいえば、うーん。それこそ、三種の神器とかにあたるのかなぁ。 日本創世神話自体が日本人にそれほど知られてないので、あまり凄みを感じませんね。困ったもんだ(苦笑)。

 閑話休題。「ダヴィンチ・コード」の話に戻りましょう。

 まぁ、あまりに有名な作品になってしまったので、中身の説明はいいかな(苦笑)。 美術関係に興味があり、キリスト教関係に興味があれば、読んでつまらなかったということはないと思います。 いや待てよ。むしろ、レオナルド・ダ・ダヴィンチがどういう人だったのかを知らない、っていうくらいの人の方が、 驚きの連続で、楽しめるのかも知れません。わたしみたいに半端に詳しい知識持っていると盛り上がれないのかも(汗)。 まぁ、普通に万人にお勧めできる本ですよ。

 美術ヲタの人には、むしろこの本より、「ゴッホ殺人事件」(高橋克彦、講談社文庫)とか、 「偽りの名画」(アーロン・エルキンズ、ハヤカワミステリ文庫)とかの方が歯ごたえあるかも知れず。

一応Amazonリンク:
「ダヴィンチコード」(文庫版)
「ゴッホ殺人事件」(文庫版)
「偽りの名画」(HM文庫版)


[本]

「天使のナイフ」。 / 2006-04-04 (火)

 「殺してやりたかった。でも殺したのは俺じゃない。妻を惨殺した少年たちが死んでいく。これは天罰か、誰かが仕組んだ罠なのか。 「裁かれなかった真実」と必死に向き合う男を描いた感動作!第51回江戸川乱歩賞受賞作」。

 読み終わったのはしばらく前ですが、全然書いてなかったので、書いておこうかと。

 というわけで、「天使のナイフ」(薬丸岳、講談社刊)です。

 冒頭に書いたのは、この作品の帯文。この本は「容疑者Xの献身」で書いた、週刊文春ミステリベスト10の2位に選ばれた作品。 主人公はかつて妻を少年3人に殺害された遺族で、事件に関するマスコミ取材で「法が裁かないのであれば、犯人を殺してやりたい」と言ったことがある。

 事件から4年経ち、その犯行少年の1人が主人公の職場近くで殺害される。動機は十分、アリバイもない。主人公は堂々たる第一容疑者だった…。

 序盤のストーリーはこんな感じ。まぁ、ぶっちゃけ、話は暗いです。爽快なミステリを求めている人には絶対お勧めしない。 ただ、ミステリというよりは、しっかりとした社会派の物が読みたい人には絶対のお勧めです。

 主人公自体が少年犯罪の被害者遺族なわけですが、この本には主人公の妻の事件を含め3件の少年犯罪事件が出てきます。 被害者遺族、加害少年、更生施設の人々、人権派弁護士などがそれぞれの視点から少年犯罪について色々な意見を口にします。 それを聞き、主人公は時に反発し、時に相手を理解していくわけですが、読んでいる読者が何を感じるかが重要ですね。 きちんと彼らの抱いている想いを受け止められるかどうかで、この本の評価は大きく変わると思います。

 物語は中盤から、大きく動きます。ミステリなので詳細は伏しますが、まさに糸がほどけるように、クライマックスまで一気に話が流れます。 きちんとミステリとしての体裁は整えていますが、謎解き自体が好きな人には、ご都合主義に見えてしまうかもしれません。

 この本は乱歩賞の受賞作ということで、作者にとってはデビュー作になりますが、 そんなことは一切気にならない作品です。次作に求められるものは非常に大きくなるでしょうが、楽しみではありますね。

 この本を読み終わって、少年犯罪と社会が抱える歪み、また更生とは何なのか、そういうことを色々考えました。 わたしは、少年犯罪については、個別に判断し必要であれば何歳であろうと厳罰に処すべし、というのが考えですが、 これを読んで、擁護派の考えも少しわかった気がします。また、なぜそれぞれの主張が頑なであるのかも…。

 強い信念を持ち、それが正しい道だと信じない限り、擁護派であろうと厳罰派であろうと、当事者に近い位置に立つことはできないのですね、きっと。

 いずれにしても、自分にとって、非常に強い印象を残した本となりました。 気持ちに余裕がない状態だと、作品と一緒にダウナーになってしまうかも知れませんが、 そういう状態ではなく、興味を持たれた人がいれば、是非一読をお勧めします。

 余談ですが、この本、巻末に乱歩賞の選評が書かれているのですが、今回選外となった作品へのコメントもそのまま掲載されています。 その作品のいくつかがとっても読んでみたくなりました。…もちろん、出版されてないので、読めないわけですが(苦笑)。


一応Amazonリンク:「天使のナイフ」


[本]

「銀盤カレイドスコープ」。 / 2006-02-01 (水)

 集英社スーパーダッシュ文庫の「銀盤カレイドスコープ」(海原零)ですが、今日、最新の6巻まで読み終わったので、感想なんぞ。

 最初はなんで読もうと思ったんだっけな。なんか(な)の人が読んでるのは知ってて、挿絵が鈴平ひろ氏だということもあって、店頭では何度か見たことはあって…。 まぁ、そんな状況下で、アニメ化されて1話を見たら、余りの出来にげんなりしたのがきっかけだったような(汗)。

 つーわけで、まとめて注文して、1巻から読み始めたわけですが…。 まず、感じたのはテンポの良さ。まぁ、ライトノベルなんだから、それはある意味必須要素ではあるんですが、 それでも、主人公タズサの裏表のなさすぎる性格もあってか、すごく気持ちいい。

 フィギュアスケートという、概要は誰もが知っていても詳細になるとほとんどの人が知らない世界。 細かい技の名前などは、多分みんなわからないでしょうけど、 それでも、気持ちよく読み進めていけるというのは、「ジャンプ」「スピン」といった単語から、なんとなく動きが想像できるからでしょうか。 わたしは、ジャンプの種類とかはある程度知ってるので、また違った読み方をしてるかも知れませんけど…。

 さて、この1巻と2巻は、著者のデビュー作であり、また新人賞の応募作品でもあります。そのせいもあり、見事に完結してるんですよね、2巻で(苦笑)。 才能はあるのに本番に弱く結果が出せない、16歳のスケーター桜野タズサ。そして、そのタズサに憑いてしまったカナダ人の幽霊ピート・パンプス。

 この第1部ともいえる、1、2巻ではピートがいわばアドバイザーのような役目を果たし、2人でトリノ五輪(実世界ではもうすぐですが)を目指します。 タズサの成長ストーリーなのですね、要するに。そして、ちょっぴりのロマンスと。

 正直なところ、2巻の結末が気に入って、もうこれで十分と思った人は、3巻以降は読まない方がいいかも知れません(苦笑)。 もし、読むのであれば、一気に最新6巻まで読んでいただきたい。3巻、4巻辺りまでだと、ちょっと首を傾げるかもしれない(わたしは首を傾げた)。

 内容がばれない程度に3巻以降を説明すると、まず3巻は第1部の余禄というか、いわばつなぎで、この3巻をもって、桜野タズサというキャラクターは「完成」したように思います。 完全に表裏がなく思ったことは口にする、スケート以外のことにはあまり頓着しない、そして自信家。 そんなタズサがわたしゃ、かなり気に入ってたりするのですが(笑)。まぁ、身近にいたら、きっと中身が見える前に引いてしまうでしょうが…。

 4巻以降は、タズサが脇役に回り、ちょっと見には外伝に見えますが、6巻まで読んだ今では、全体のストーリーの一部だと感じられます。 正直に言って、最初に4巻を読んだときは、強烈なキャラのタズサが前面に出てこないので、物足りなさを感じたんですが、5巻、6巻と読み進んで行くうちに、なんとなく納得できました。

 この第2部にあたる4~6巻では、タズサはほんの少しの出番と、行動の伝聞があるだけです。 しかし、タズサの行動とその状況が容易に想像できるだけに、ほんのちょっとの情報でタズサというキャラは熟成し、物語世界での存在感は更に増していきます。

 なんというか、他人の目から見ていることで、タズサのスケーターとしての凄さが際立つといえばいいのかな。 これを普通にタズサの視点で描いていたとしたら、面白くはあったでしょうが、タズサの自信満々な発言が入ることで、凄さという印象は出なかったように思います。

 さて、作者によると、次巻の物語が最終巻だそうですが、どのようにまとめてくるのか今から楽しみです。 物語の作り方として、最後の物語の主役はリア、ガブリー、そしてもちろんタズサのはず。 本物のフィギュアスケートでも見ながら、発売されるのを待つとしますよ(笑)。タズサが幸せになれる結末だといいなぁ…。


一応Amazonリンク:銀盤カレイドスコープ 1巻 2巻 3巻 4巻 5巻 6巻