[本]

「闇の底」。 / 2006-12-22 (金)

 「天使のナイフ」でデビューした著者の2作目の本、「闇の底」(薬丸岳、講談社刊)を読了しました。 ちなみに「天使のナイフ」の感想はこちら

 前作「天使のナイフ」は、少年犯罪の加害者と被害者というのがテーマにありましたが、 今回は性犯罪(それも幼女の暴行殺人)の加害者と被害者がテーマになっています。

 まぁ、ミステリである以上、加害者に焦点があたるのは当たり前ですが、 この著者の場合、過去の事件の加害者、被害者がどんな風に生きているのか、どんな心情を抱えているのかといった点に焦点があたるのが特徴といえます。

 なんか、前作とテーマが似てるので、どうしても比較したくなってしまうのですが、いちいちやってもしょうがないので、最後にまとめて。

 この作品は、視点が入れ替わりながら記載されています。 『幼女暴行殺人事件の捜査本部』、『性犯罪前歴者殺人事件の捜査本部』、『性犯罪前歴者を殺害していく「男」の生活』の3つです。

 当初は関わりのわからないこの3視点は、「幼女暴行殺人が起きるたびに、性犯罪前歴者を殺す」という犯行声明により、結び付けられます。

 主人公といえる長瀬刑事は、子供時代に妹を暴行殺人で亡くしており、似たような犯歴を持つ犯人に対峙すると、感情が抑えきれなくなることもある。 警察官でありながら、懲役刑で贖罪を済ませ、のうのうと生活している前歴者を「私刑」として殺害していく「男」にシンパシーを感じてしまう。

 その犯人に対峙するとき、長瀬は何を思い、どんな行動をするのか。「闇の底」はそういう話です。

 正直にいって、作品の出来でいえば、間違いなく「天使のナイフ」の方が上です。 ある意味で、「天使のナイフ」よりも難しいテーマを扱ってはいるものの、ひどく中途半端な印象があります。

 おそらくですが、長瀬の想い、長瀬の妹の事件に関わりいわば長瀬の父親代わりでもあった藤川の想い、また犯人である「男」の想い、 こうした、それぞれの想いがいまひとつはっきりと見えてこないからでしょう。 前作は、人々の想いが強く感じられたからこそ衝撃的な作品でしたが、この作品は残念ながら、その部分がぼやけてしまった感があります。

 この作品の読了後の感想としては、「警察官は犯罪に潔癖でなくてはならず、加害歴も被害歴もないに越したことはない」ということでしょうか。 警察官というのは、法の執行者です。法の理念に基づき、時には理不尽であっても、その精神を体現した運用が行われなければなりません。

 わたしは犯人である「男」が誰なのか、また、どんな幕引きを望んでいるのかが、中盤で読めてしまいました。 その可能性に思い至らなかった人には、おそらく衝撃的な真相だと思いますので、また評価も違うかもしれません。

 まぁ、「天使のナイフ」の衝撃には及ばないというだけであって、単体で見た場合には、それなりの出来ではあるんですけどね(苦笑)。 期待しているからこそ、評価が厳しくなるわけで、また一皮も二皮も向けた次作に期待したいところです。


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